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モヘンジョ=ダロ

インダス文明の代表的な都市遺構、モヘンジョ=ダロ。

パキスタンのカラチから北へ約300キロほど、インダス川をさかのぼったところにあります。

カラチからモヘンジョ=ダロ間には、毎日定期便が飛んでいます。

1時間半ほどで遺跡のすぐそばの空港まで行くことができるのです。

インダス川のデルタ地帯はところどころに低木が茂っていて、砂漠ではありませんが、塩害のために半砂漠化しています。

パキスタンのタクシーにはクーラーなどついていませんし、外気のほうが熱いので窓を開けることもできません。

シートに座っているだけで、体中から汗が噴き出してきますよ。

ときどき田舎町を通り抜けると、ロバやコブ牛に引かせた牛車とすれ違いますが、パキスタンでも南部の人は、サウジアラビアや湾岸のアラブ圏の人びとと同じように、頭から白い布をすっぽりかぶって暑さを避けていました。

中産階級の遺跡

耐久性では、石造建築がいちばん。

しかし石を切り出したり、輸送や石積みの作業には膨大な人員が必要となりますので、強大な中央集権国家でなければ建設できませんでしたし、石を加工する金属器も必要でした。

ローマ帝国が全土に巨大な建築物を残すことができたのは、皇帝の強大な権力と、奴隷制度、鉄器の普及があったからです。

インダス文明については、まだ文字も解読されていないために詳細が判明していませんが、出土品などを見るかぎり、青銅器と石器を併用していた文明の段階。

青銅は偶像に使われていた程度ですから、石造建築を残すことはできませんでした。

古代ローマの巨大な石造建築物が上流階級、特権階級の遺跡だとすると、モヘンジョ=ダロの焼きレンガの都市は中産階級の遺跡。

日乾しレンガの遺跡は、もうちょっと貧しい時代の遺跡といった感じがします。

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沐浴場で豊饒を祈る

モヘンジョ=ダロ遺跡は、周囲4キロほど。

4000年前の古代都市としては、とても大規模な都市の遺跡です。

遺跡はふたつのなだらかな丘に分かれていて、西側の小さな丘に城塞が、東側の大きいほうの丘に広大な市街地があります。

城塞部はほとんど発掘されていますが、市街地のほうはまだ一部分しか発掘されていません。

城塞の頂上には、こんもりとした塔の跡がありますが、これはクシャーナ朝時代のストゥーパで、インダス文明のものではありません。

城塞は高さ10メートルくらいのレンガの基檀の上に築かれており、巨大な建物が密集しています。

城塞のほぽ中心部、さまざまな建物の中庭にあたる位置に、この遺跡でもっとも神聖な場所だったと考えられている沐浴場があります。

この沐浴場は、レンガをていねいに積み上げて造った12メートル×7メートル、深さ3メートルほどの4角いプールで、両わきに階段が設けられていて、中に下りることができるようになっています。

プールの底は、水が抜けないように天然の渥青(アスファルト)で固められているのだそうです。

インドでは、現在も沐浴が宗教上の重要な儀式となっていますが、たぶん、モヘンジョ=ダロの神官たちも、この沐浴場で身を清めて豊饒を祈ったりしたのではないでしょうか。

古代の衛生思想

沐浴場の排水溝をはさんで、すぐ西側には、巨大な穀物倉庫の跡が並んでいます。

通風口も備えた本格的な倉庫で、モヘンジョ=ダロがインダス川流域の豊かな田園地帯を支配していたのであろうことをしのばせます。

城塞部には、このほか、列柱の跡が残る集会場などもありますが、古代遺跡にはつきものの王宮や神殿の跡は見つかっていません。

ただし、城塞部には住居にあたるものはほとんどありませんので、モヘンジョ=ダロの政治や宗教の公共の場であったと見てよいでしょう。

市街地の遺構は城塞の丘から200メートルほど東。

市街は南北に走る幅約9メートルのメインストリートと、幅約3メートルの路地で細かく区画されています。

モヘンジョ=ダロは実によく計画的に建設された都市でした。

とくに下水道施設は、この都市が4000年前の廃壇であることが信じられないほど・・・。

大通りにも路地にもレンガを組んだ暗渠の排水溝があり、すべての住居から排水がその排水溝に流れ込むしかけになっています。

東京の町にすべて下水道が完備したのは、たしか1960年代だったと思いますから、モヘンジョ=ダロの人びとというのは、きわめて進んだ衛生思想を持っていたようです。

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廃城になった理由

古代ローマやインカ帝国には、石畳の道路というのがありました。

モヘンジョ=ダロの道路は、石の代わりに規格化された焼きレンガを敷いたもので、大通りは道路の縁を低くして、側溝に水が流れ込むように設計してあります。

住居、道路、排水溝、すべてが何種類かの規格寸法に焼かれたレンガで築かれているわけです。

これだけ大量の焼きレンガを生産し、供給するシステムや社会の構造こそが、それ以前の農耕社会との大きな差だといっていいでしょう。

しかし、これだけ高度な計画都市であったモヘンジョ=ダロは、紀元前1800年前後に廃城となってしまいます。

その理由として、異民族の侵略説、環境激変説など、いろいろな説が考えられてきました。

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異民族の侵略説と環境激変説

異民族の侵略説は、たとえば、アーリア人のインド侵入は紀元前1500年前後ですから、モヘンジョ=ダロの消滅よりもあとのことだと思います。

環境激変説は、あまりに大量にレンガを焼いたために周辺の森林がなくなり、また、放牧で草原もなくなってしまって砂漠化したという説。

現在の公害や地球環境問題を考えると、そういうこともあるかもしれないと思わせますが・・・

わたしはこの説には賛成していません。

たしかにレンガを焼くために燃料を必要としたのは確かでしょう。

しかし、すべての森林が消え去るということはありえないでしょう。

年月がたてば新たな森林が生じたはずです。

家畜の放牧も、家畜が放牧されることによって、家畜の排泄物で土地は肥えてきますし、草の種子も牛や羊に運ばれて広がるものです。

滅亡の本当の原因は・・・

私は、モヘンジョ=ダロの滅亡や衰退のいちばんの原因は、地球規模の気候変動と、それにともなうインダス川の流路の変更によるのではないかと考えています。

地球のまわりには「収束帯」という、雨を降らせる帯が、北半球にも南半球にも1本ずつ、それぞれ緯度でいうと25~40度前後のところをとり巻いています。

日本が水に恵まれているのも収束帯のおかげです。

この収束帯は、太陽の黒点活動の影響などを受けて、長い年月のうちに、ときどき上下に移動することがあります。

古代、モヘンジョ=ダロが栄えたころは、インダス川の上中流域は豊富に雨が降った地域でした。

モヘンジョ=ダロにも3回以上、大洪水を受けた跡が残っています。

ところが、地球規模で収束帯の移動が起こり、雨が降らなくなります。

当然、インダス川の水量が減少して川筋が変化してしまい、モヘンジョ=ダロ一帯が砂漠化することになります。

川筋が変わると、地表上の問題だけでなく、地下水にも変化が起こります。

地盤全体が塩害で汚染され、穀物を豊かに実らせたインダス流域の農地も荒廃していきました。

なぞのインダス文明

巨大な穀物倉庫も無用の長物となり、人びとは豊かな土地を求めて移動していきました。

そして、モヘンジョ=ダロは褐色の大地に埋もれた死者の丘となってしまったのです。

モヘンジョ=ダロの市街地には、高さ6メートル近いレンガ積みの井戸が残っています。

インダス川が氾濫して市街地が洪水を受けるたびに、縁を高くしていったために塔のようになった井戸です。

洪水が来る土地というのは、ナイル川でも解説しましたが、古代の農耕文明では、決して不毛の地ではありません。

しかし、雨が降らなくなり、川筋が変わっては、その洪水もめったに押し寄せてこなくなったのです。

焼きレンガの廃塊がタ陽を浴びて、オレンジ色に輝くのを見ながら、モヘンジョ=ダロの都市文明を築いた人びとは、いったいどこに散っていったんだろうと考えます。

やはりインドなのでしょうか。

それともアラビア海を渡って、メソポタミアに渡った人たちもいるのかもしれません。

「どんなに優れた文明も自然には勝つことはできない」

でも、その文明を携えてほかの土地で生き残った人びとはきっといたはずです。

インダス文明については、まだまだわからないことがいっぱい残されたままです。

インダス文字の解読や、今後の発掘作業が進展すれば、もっともっと新たな発見や解釈ができるようになるでしょう。

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